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4. 滝面の地形−水流の作る地形− |
「滝面」とは、滝の水流の落ちる部分(増水時に)を呼ぶ用語です。 私は、滝と言うのは滝面の周りを含め、瀑布帯全体を含めてみるべきであるという立場ですが、滝面のかたちは、滝の好きな方々の興味の中心と思いますので、滝面の形を千葉の例をもとにまとめてみました。 結論は「滝面の形状は、一定の記述方法で記載できる」と言うことです。 まず、水流が滝面にどのような微地形を作ろうとしているか、多くの滝からそれらに共通する形を抜き出してみます。 |
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0.まえおき 滝のかたちは3種類ある 滝の形を考える際の基本的考え方です。哲学ですね。 特に興味のある方だけ見てください。 ↓ 補足 滝のかたちは3種類ある。 |
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1。単独の滝と多段小滝、滝の段 ● 多段小滝 普通、瀑布帯あるいは滝は、落差のある段が岩床を隔てて存在するわけですが、その落差分にたくさんの小滝(1m以下ぐらいのやつ)の連続でできているものがあります。 この連続した小滝群を1つのものとして扱い、「多段小滝」とします。 記載の際にこの小滝を全部あげていったら繁雑だということもありますが、この連続した小滝群を1つのものとして扱う理由は、洪水時(滝面の形成時)には、全体で1個の谷底の傾斜面として機能すると考えられるからです。 ● 滝の単位 →段のある滝と2つの滝との判別 上のと同じ考え方で、滝の単位を判別することができます。 単独の滝が2つあるのか2段の滝が1つあるのか、つまり滝の定義ということになりますが、洪水時に落下する水流が、ひとつながりと考えられるような接近した状態なら、「段」、いったん落下方向の流れが水平方向の流れにかわって再度落下するというひとつながりの状態でないと考えられるほど離れていれば、2つの「単独の滝」となります。当然、この場合は、連瀑でもある。 洪水時の滝の様子は普通見られないから、この区分は厳密な所になると絵に描いた餅で、境界はあいまいですし、川の大小によっても変わってくるでしょうから、機械的に□□mならどうこうとは言えませんが、房総の滝だと、3〜4mぐらいの平坦な部分があれば2つの滝になるでしょうね。 念のため、落下流が2つになることが何故重要かといえば、そうなっていれば、滝が分裂していると言えるからです。 |
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2。「面滝」と「線滝」
面滝というのは、滝の所で川幅が変わらない滝。線滝は、滝の所で川幅がぐっと狭くなる滝。当然滝面も狭い。 滝の形を平面形で分けるのは、あまり例が無いと思いますが、滝の存在・非存在の次に、滝の幅が、次に大きな地形の類型区分になります。そこで、面滝と線滝という用語を作って分けました。 考えてみると、面滝は、水のエネルギーが川幅いっぱいに均等あるいは不均等に配分されているわけだし、線滝は、水のエネルギーが狭い部分に集中している状態といえるわけで、より細かい滝面の地形が違ってくる、おおもとの原因になっていることが考えられます。 このような滝の平面形の違いがどうゆう意味を持つのかは、まだ判りませんが、現在の滝面の侵食の様相が面滝と線滝では異なっていることは確実です。 また、一つの滝が後退し変化していく過程で、常に面滝なら面滝でありつづけながら後退していくとは考えられず、面滝だったり線滝だったりしながら後退していくと考える方が順当だと思われます。 この差が、滝面の変化史の中で、変化の局面と面滝線滝の差異とがどこかで対応しているはずではと思っております。 補足1.面滝の幅:川の大小によって川幅は変わるから、幅広の滝とは違います。滝面が狭くても川幅が小さければ面滝といえる。 補足2.面滝で川幅より滝面が広くなる場合があるかもということは、ごく緩い低い滝でないとあまりおこらないと思いますので削除。線滝の場合、滝面が末広がりになるのはよく見かけます。これはまあ当然かも。 補足3.名称は、私の新称です。以下の滝面の名称は、断面形の名称を除いて全て私が定義した意味で使用しています。 補足4.面滝が川幅と一致する事が地質の影響だという人はいないと思います。しかし、線滝が節理や断層破砕帯等の弱層などの岩質の規制によってできるのではと考えている方もあると思いますが、房総のような均質な未固結岩の地域でも線滝は一般的に見られ、線滝を作るような条件が河川自体の運動の中にあることを示しています。 |
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3。「直な滝」、「ねじれ滝」、「曲がり滝」 面滝、線滝のいずれでも、滝は多くは平面形が直線状ですが、時に曲がっていることもあります。 まっすぐな滝を「直な滝」、段がなく滝面が平面的に曲がっている滝を「ねじれ滝」、段によって折れ曲がっている滝を「曲がり滝」と分けることにします。
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3。滝面の3区分と落下境界線 ここで、滝面の縦断方向から見た3区分について、寄り道していきます。 以下の話は、 花崗岩や固結度の低い砂層の滝のように粒状に分離する岩質の滝面を想像していただけると分かりやすいと思います。
滝面を縦断面方向から見ていると、傾斜変換する所があり、3つの部分にわかれています。 「上部滝面」 滝の落ち口部分の上に凸あるいは直線状の緩斜面部分。水はやや急に流れる。上流の岩床より傾斜は急ですが、緩傾斜なので滝面という感じはあまりしません。 「中部滝面」 滝の水が落下・急流となって落ちる部分。ハングすることもある。いわゆる滝の部分ですね。 「下部滝面」 滝の下部、上に凹。滝壷の水面近くの滝の水流が落ちかかっている部分。 この3部分が地質の差異にかかわらず認められると思われます。 そして、「上部滝面」と「中部状滝面」の境を「落下境界線」(水が急に落ちはじめる境。中部斜面の上端)と言うことにします。 補足1.無段の滝面を単位として見た場合の話です。段があれば、段で分かれた滝面ごとに同じ微地形がでてくるのでは。 補足2.房総の滝は最大で30mぐらいですので、50mとか100mとかの大きな高い滝、あるいは、落下水流が四散してしまうような滝の場合は、特に下部斜面については異なった形がでてくるかも。 補足3.熱帯の川の滝などは、川の働き方が違うようで、そのまま適用できるか分かりません。 補足4.岩質の差によって、これらの微地形の現れ方は異なってきます。 たとえば房総では、固結度の低い砂岩の滝では、落下境界線は不明瞭で、上部斜面は、長く、上に凸の丸みを帯びています。一方、固結度が高く硬くなる泥岩層の滝の場合は、上部滝面は直線状になり、より上流の平坦な岩床に比べてやや急な程度になり、長さも短くなります。落下境界線ははっきりしてきます。 地層が順層か逆層かの違いによっても、滝面の形には違いが現れるようです。すなわち、房総の粟又滝のような緩い傾斜の泥岩順層の滝の場合、中部滝面が上下に分かれ、上半部分は泥岩層上面がナメ滝となって地層面と平行した滝面となり、下半部分(滝末端)は地層を縦方向に切る急な滝面になります。 泥岩逆層の滝の場合は、上部滝面がごく短く、中部滝面は急傾斜な壁状の滝面になります。 なお、泥岩層の滝では、平滑な岩床から上部斜面がなく直に中部滝面になる滝(ストンと落ちている滝)も存在します。この種の滝は、どう考えても、中部滝面の後退が早いと思われますね。 |
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4。「壁型」の滝面、「複合型」の滝面 上記の落下境界線に注目して滝の平面形を見た場合、面滝の場合は、落下境界線が直線になる場合か、主滝副滝があって、一部が凹線になる場合かに別れます。 前者の場合を、「壁型」ということにします。下からみると壁にみえるからですが。後者の場合は主滝と副滝の2つの滝面でできているので「複合型」とします。
余談ですが、この壁型の滝、あるいは複合型の主滝の落下境界線は、普通、川の上流方向とは大体直交する直線状になります。 つまり平面形が斜めの滝というのはほとんどない。 そうゆう風に水流が作りたいらしいです。 どうしてなのでしょうか。私には分かりません。分かると面白いことが開けそうなのだが。 なお、壁型の滝は川幅が広いと、直線状でなく馬蹄形に中央部が凹む形になる場合(「馬蹄形型」)がありそうです。 房総の場合、そんなに川幅が広い滝がないので事例がないのですが。 日本国内では、□□のナイヤガラと呼ばれる、馬蹄形型の滝はあるようですね。 |
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5.えぐれた滝面 1:「溝状」の滝面
直線的にえぐれている場合、「溝状」の滝面ということにします。 溝状でもタイプがあります。 幅がほぼ同じで曲がりがない形:「直線溝状」。 溝が急角度に曲がる形:「曲がり溝状」 溝が円形に狭くなったり広くなったりする形:「かくれ溝状」 などがあります。 なお、滝面の岩石の弱線、弱層を選択的に掘り出した溝もみられます。多くの場合直線的なのです が、水流主体のえぐり溝とは違って浅かったり、方向が斜めだったりします。: 6.えぐれた滝面 2:「歐穴状」の滝面 面滝の場合の副滝あるいは線滝のえぐれ部分が、歐穴状の円形の平面形の滝面の場合。 歐穴あるいは滝壷状の円筒形のえぐれなのですが、当然下流側の壁がこわれた形になっています。 7.あまりえぐれてない滝面:「円弧状」の滝面. 面滝の場合の副滝あるいは線滝の滝面が、えぐれがまだほとんどない状態の滝面 副滝の場合は、主滝の壁状の滝面に対して、その面をスプーンでえぐったように掘り込んでいるが、落下境界線はあまりえぐれていないで、ほとんど直線といった場合です。主滝の滝面に対するえぐれがオ−バ−ハングになっていることもまま見られます。 線滝の場合、滝の直下が滝面の狭い幅より円形に拡がり、滝壷になったり、円形の広場状になるのが普通です。滝面がえぐれていない場合は、滝面はその円形の壁の一部となりますので、同じ「円弧状」の滝面と呼ぶことにします。 |
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8。縦断面形からみた滝面の微地形 上記の滝面の平面形が示す、侵食現象より一段下位の侵食現象が滝面の断面形です。 断面形からみると、滝面は傾斜のいろいろ(オ−バ−ハング、直下、急傾斜、緩傾斜)で区分できるとは思います。 さらに、その滝面の表面微地形で、「ナメ」(凹凸がない平滑な表面)、「階段状」(主に地層の層ごとに段々をなす表面)などがあると思います。 ただ、このあたりまでくると、水流の地形というより、岩質の制約がより強くでてきている地形となりますので、滝面の成因分類としては平面形による分類を優先すべきでしょう。 また、急傾斜と緩傾斜に分けましたが、その境を何度にとるべきか、そもそも2つの区分でよいのか、私には分かりません。 角度によって分類する事は厳密にみえますが、滝面の成因的分類のために必要かどうかは分かりません。急角度の滝面と緩傾斜の滝面で水流の速度や流れ方が、何度を境にどう異なるか知らないからね。 ただ、60度以上の急傾斜の場合と、30度以下の緩傾斜の場合とで、かなり侵食のされ方が異なると思えます。・・将来の課題ですね。(^_^;) 登りやすさという点で、角度で分類することは、成因的分類とは別ですが別の面で有用とは思います。 また、景観的な見地では、平常時の水の様子を示すものとして、中部滝面の角度による分類を作るのは有用と思います。 |
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9.滝壷 滝面の記載に、滝壷の有無は景観上も重要ですが、滝面の成因を考えるうえでも滝壷ぬきで考えることはできません。 ただ、この辺の話は、「工事中」にさせていただきます。 滝壷が川幅全体の大きさがある「全面滝壷」か、川の一部しか占めていない「部分滝壷」か、その深さは・・。 がまずは記載対象になると思います。 |
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10.補足:岩床や小滝にもみられるより小さな地形 上記の滝面の地形より1ランク小さな地形を、微地形としてあげておきます。 歐穴:ポットホール:渦流する水流により削られ特有の形を示す穴。 滝に特有の地形ではありませんが、河床が急勾配のところにしかありません。 岩床、滝面で見られます。 滝壷の小さいものは多かれ少なかれ形が似ています。 溝穴:岩床の河床にみられる断面半円状の溝状のへこみ。歐穴の場合より 勾配がやや緩い河床でもみられる。やはり水流による侵食地形。 地層の凹み:滝面、滝崖、廊下等の壁表面が、地層に沿って凹所となっている 微地形。 地層は砂岩層や凝灰岩層である。水流侵食によるものでなく、粗粒物質の風化作用や地下水の流出による粗粒の未固結粒子の剥脱によるものと思われる。 洗濯板状地形:岩床特有の水流侵食地形。砂泥互層がでている岩床でひろくみ られます。砂岩や凝灰岩層がへっこみ、泥岩が相対的にでっぱります。 でっぱりの上がほぼ水平でそろうことが特徴。 弱線に沿う割れ:岩床や滝面、滝崖などにみられる。節理面や断層面などもとも と割れ目がある部分で岩石がはがれて削られている形状 巨岩:滝崖や河道沿いの崖が大きなブロックで割れ、河道に落込んできた結果で きた巨大な礫。このような巨岩がどのように、どのぐらいはやく、風化して消滅するのか、知りたいですが分かっていません。 人間の作った穴:房総の川の河床によくみられる小さなポットホール 状の穴。 川を横切って複数列並んでいることが多い。直径が一尺以下で口径の割に深かっ たり、壁が垂直なのでなんとなく人工とわかる。以前の川堰の柱、橋の柱、筏流しの堰の柱などの跡です。 ●注 |
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11.補足その2:房総の滝は特殊か? 上の考えは、房総の滝のように固結度の低い岩石でできている滝は、水流の作り出す地形が主になり、単純な形になるから言える結論ではないかという意見も出ると思います。 岩の固い所では、千差万別なはずということですね。 しかし、他県の滝の写真などつらつら見せていただいても、基本的には同じ形だなと思います。 水流の作る地形は岩が固くても同じですし、滝面のタイプも、滝面の地形の見方・分類として一般性があると思います。 ただ、日本は広いし、以下に述べる地形や分類は房総の例を主にしたものですので、他の地域で、特殊な滝面の地形やタイプがあり得るとは思います。 |
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