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下総地方006●海上町岩井 岩井不動(龍福寺)境内
岩井不動の大滝・奥の院滝(金剛の滝) 1979・94年探訪 2001年文章作成

2012年 奥の院の滝の名称変更について、追加。 
また、2011年10月の崩壊による奥の院滝の埋没について報告作成中で近日中に掲載します。
    
-----目次-----岩井不動は有名なお寺ですので、場所はすぐ分かる。(^o^)
  見どころ:
 その1 海上郡誌にある滝。盛んな湧水とたくさんの滝。↓
 その2 大滝を調べる。自然の滝か人工の滝か?
 その3 滝は病院だった。
 その4 湧水の結果、特殊な森ができている
 データ 
 おきまりのデータ    

大滝 8m

奥の院の滝(金剛の滝) 5.5m

  その1。海上郡誌にある滝。盛んな湧水とたくさんの滝。
●この滝は、海上町岩井の龍福寺(岩井不動)にある、有名な滝で、海上郡誌と稿本千葉縣誌の両書に記述されています。
 ところが、他の滝は各郡誌と千葉県誌とでは内容が違わないのですが、この滝だけは、両者でずいぶん内容が違います。
<海上郡誌の記述>
『大瀧
 滝郷村清瀧岩井不動尊境内に在り。郡内随一の瀧にして老樹鬱蒼たる幽間大小數十條の白瀧下る、大なるものは大瀧と稱す高さ二丈六尺あり、附近に立てば夏尚粟を生ず、年中浴客あり
<稿本千葉縣誌の記述>
『大瀧 
海上郡瀧郷村大字岩井の南字瀧山に懸る、二條あり一を雄瀧と云ひ高さ三丈二尺、一を雌瀧と云ひ高さ三丈、濶さは共に四寸に過ぎず、下流は瀧郷村の水田に灌ぐ。又一瀑あり秘密の瀧と稱す、瘋癲病者往々此處に浴して治癒すと云ふ。
 
海上郡誌には、高さ7.8mの大瀧、大小多数の滝がある。
 
千葉県誌には、大瀧として、9.6mの雄滝と9mの雌滝があり、秘密の滝というのがあるということです。 かなり違いますね。

<現在の案内図には>

 
さらに、1994年に再訪してみると、1979年にはなかった案内看板が立っていて、そこには、大滝奥の院滝という2つの滝が書かれていました。

 
〈看板画像 1994年当時〉
本堂の左の滝には大滝、右手(東方)の奥の院のお堂の近くにある滝には奥の院滝と付いています。

どうなってるんでしょうね。どれがどれやら、文章では分かりません。


 さらに、2011年に崩壊の調査で訪れると、看板が新しくなっていて、「奥の院の滝」の滝の名前が、「金剛の滝」に変わっていました。
境内を歩いてみると、現在水が落ちているのは確かに大滝と奥の院滝(新看板では金剛の滝)です。

案内看板の大滝=海上郡誌の大滝、千葉県誌の大滝の雄滝
 のようです。高さは両書で違いますが、海上郡誌の高さが現在の高さに合う。
千葉県誌の秘密の滝=旧案内看板の奥の院滝新案内看板の金剛の滝
 のようです。本堂周辺の大滝やその他の人工の滝とは離れていますし、奥の院というと秘密という感じです。
 案内看板の滝の位置です。

  <滝の名称について>
原則として文章になった滝の名前を使っているので、秘密の滝を使うべきなのでしょうが、奥の院滝は秘密の滝と本当に同じかどうか疑いがあるんで、奥の院滝の名前を使うことにしました。それに、地元の人も奥の院滝といっていました。
 
 奥の院の滝は、その後、金剛の滝に名前が変えられたことになります。こう、ころころ変わると困るんですよね。まあ、観光滝名みたいなものでしょうから、しょうがないけど。

 だいぶ前から奥の院滝で通っていましたので、ここは、しばらく、両名併記で行きたいと思います。
 というわけで、奥の院滝(金剛の滝)ということにしておきます。 
 以下文章中では、奥の院滝で表記します。
 では、雌滝は?。
本堂の向かって左。雌滝か。
 大滝の脇にある自然のガリー。
 人工加工されて滝になっている。
本堂 向かって右の人工滝の跡
岩井不動の谷の地層模式断面

 境内を歩くと、本堂の周辺や境内に、人工の滝の跡や自然の湧水の滝が枯れているのなど、たくさん滝の跡があります。
 雌滝は、どれかわかりませんでした。
 可能性としては、大滝の左にある枯れている自然の滝(←写真)が、高さが大滝とほぼ同じで、並んでいますので、以前は水があって雌滝だったのかも。




 それとは別に、本堂の裏と右手の境内斜面にはいたる所に滝の跡があります。
 いずれも、自然の滝でなく、人工の滝で、水が地層にさしたパイプから出るようになっています。

 どうも、奥の院滝のほうから導水して水を持って来て、これらの滝、大滝や雌滝にも導水していたのでないでしょうか。


 <大量の湧き水>
 上の平面図に示したように、奥の院滝の少し奥から湧水があり、大滝方面へ、導水溝が斜面の中腹に付けられています。
 そして、その溝に下流側での湧水も流れ込むようになっていたらしいです。
 
 滝のある谷は、北に緩く傾いた平坦な下総台地面を削り込んだ侵食谷で、その谷の東斜面から多量の地下水が湧いているわけです。

 この水は大量なので、明らかに普通の台地の谷斜面からだけの絞り水でなく、台地の地下の地層を通って来た地下水であることが分かります。
 この地域の台地の地層は、図のように、関東ローム層、香取層(砂層または砂礫層)、飯岡層(泥質のシルト層)からなります。
 飯岡層が不透水層なので飯岡層と香取層の間から地下水が湧いています。銚子半島では、この飯岡層と香取層の境が谷の谷底の高さになったり、泉の場所、堰の場所などを決めたりと、地質→地下水→谷の地形→人間生活 といった
関係がみられる所です。
 地下の飯岡層の表面が、この谷の西面に向かって窪むか何かして、地下水が集まってくるのでしょう。実は、谷の発達も豊富な地下水のせいだと考えられます。
 下総台地の北部では、太平洋側流れる斜面で、このような豊かな湧水がある所は少なく、この谷の自然は非常に貴重なものです。
  ●その2。大滝を調べる  

■大滝平面・断面図
掘り込みタイプの地下水型の滝の、模式的な例と
いえるでしょう。

 岩井不動境内の滝は、明らかに人工の滝なんかもありますが、大滝と奥の院滝は、飯岡層を掘り込んで垂直にしてありますし、落ち口も大滝は筒だったり、奥の院滝は人工溝だったりと、当然人工がからんでいます。
 しかし、大滝には、その隣に、自然の湧水のガリー(雌滝?)があるし、現在でも水が落ちているのですから、本来は自然の滝を加工した滝(掘り込み型の地下水滝)かもしれません。それとも完全な人工の滝か?
 その判定は、水が滝の上で湧き水がでているのか、導水の水かを見ないと分かりませんね。

 というわけで、大滝の上に登ってみました。

 本堂の後ろから脇の崩れた斜面(図の崖錐)を登れますが、大勢が登るとそこが又崩れそうなので、よっぽどの篤志家のみにしてください。
 
<観察>
滝の頂上の高さから下は、泥質のシルト層(飯岡層)で、上には粗い砂の砂礫層(香取層)があります。
その境からは水が湧いていて、飯岡層の所で水を通さないので表流水になって、自然の雨裂溝(ガリー)や崩壊ができています。
 ただし、普段は染み出す程度で、その上の香取層の斜面には凹所がありません。
 ところが、大滝のところは、常時水が湧いている状態で、滝の上の香取層の斜面にも浅いですが崩れが発生していて、その凹所が崩れた砂礫の崖錐(崩れた砂礫が造る扇状地状の地形)で埋まっています。
 つまり、大滝の所は他のところより湧水が多くて常時でている所で、その結果地形も変っているわけですね。
 というわけで、大滝は本来水の湧く所にあたり、自然の滝があって,奥行き8m、深さ8m、幅1.8mほど掘り込んで作った滝というわけです。結構大工事。
 しかし、滝の上には、飯岡層の上面に沿って、導水溝が掘られていました。
現在は、放棄されて、溝も香取層からの崩れた砂礫で埋まっていて水は全く来ていませんが、本堂背後の湧水を集めていたと思えます。
 なお、奥の院滝も、本来は自然の常時湧水があった泉を加工したもので、滝面は大滝と同じく飯岡層を掘り込んで造成されています。 導水溝はなく、滝の上部が人工の掘り込み溝になっていて、滝上の小さな谷頭からの湧水を一カ所に集中するようにしています。 

<推論>
。大滝・奥の院の滝は、本来は自然の湧水による地下水型の滝であった。大滝の導水溝は雌滝まで行っていた可能性も高い。
。奥の院滝や大滝などの自然起源の掘り込み滝や、雌滝などの人工滝は、水行用に整備・設置された。奥の院滝の石塔は江戸時代末のものですので、整備されたのはそのころと思われます。
 その3。 滝は病院だった
 船橋滝不動の所で述べたように、滝の水行は、現在は信仰行事あるいはそれが自己目的として行われているようですが、江戸〜戦前までは信仰の願掛けだけでなく、病気治療としても行われていて、岩井不動はそのような滝の水行を特色とする病院機能を持った寺として下総地方の代表的な寺でした。

 海上郡誌、稿本千葉縣誌にも『年中浴客あり、『瘋癲病者往々此處に浴して治癒すと云ふ。書かれています。
 水行のために泊まり込む人達のための大きな建物が今でも門の脇に立っています。案内看板の図に画かれている、山門の脇の細長い建物がそれで、実物を見るとずいぶんと大きな建物で、盛況のほどがしのばれます。
 龍福寺本堂 左に大滝  大滝下の倶利迦羅不動と不動明王
 山門の左手の大きな建物が宿泊施設
  ●その4   湧水の影響で特殊な森ができている
     
 
 龍福寺境内の森は、信仰から保護されて来た森で、千葉県の県指定天然記念物になっています。
 スダジイの極相林として価値が高いものだそうだが、大量の湧水のため、特異な環境で、ゴマナ、アケボノソウ、アケボノシュスラン・・等の貴重な植物もあり、オタカラコウは県内唯一の産地だそうです。また。暖地性の植物に寒地性の植物が混在していたり、モミ林の残存がみられるのも特徴とのこと。→指定文化財の説明書から抜粋。 実は、私は植物のことは全然わかんないので、植物に詳しい方はどうぞ御自分の目で見て下さい。
 確かに、何時行っても、ヒンヤリして、ジットリしている所だなあというのは体感できます。当然、植生でも違ってくるんでしょうね。

岩井不動の大滝
高さ:8m。
成因:人工の滝  湧水型の滝,自然の滝を掘り込んで改造、導水し修行場として作成。
地層:上総層群飯岡層
位置:東経140°41’39″北緯,35°45’1″(日本座標) 
    海上町岩井 龍福寺 本堂わき

岩井不動の奥の院の滝(金剛の滝)
高さ:5.5m。
成因:人工の滝  湧水型の滝,自然の滝を掘り込んで改造、修行場として作成。
地層:上総層群飯岡層
位置:東経140°41’40″北緯,35°44’58″(日本座標) 
    海上町岩井 龍福寺 境内東方

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