南房総市珠師ヶ谷 柱木牧の滝  記録カード   滝記録カード目次に戻る  HPtopへもどる

●遷急点名 柱木牧の滝   ●水系名 温石川  ●立地沢名 温石川左股(仮称)  ● 滝一覧リスト とのリンク
 <もくじ> 
   概要    ・・・・・牛のよだれのように延々と下に続いています。 お急ぎの方は、概要だけで。(^_^.)
   
滝の名前・発見史
   滝の地学
    1.温石川上流の河床縦断と遷急点
    2.左股の地形
    3.滝面と滝崖の地形
   参考文献
   未調査事項
   画像アルバム
  柱木牧の滝 概要
● 概要

 南房総市丸山町珠師ヶ谷の温石川左股にある滝。
 概略位置はこちら

 2.5万地形図「安房古川」での位置は、図 1参照。

 この滝は名前が分からず、無名の滝ということになるが、以前、筆者が「大谷の滝」と小字をつけた仮名で紹介した滝である。しかし、最近、房日新聞の記事で取り上げられ、小字大谷は誤りで、小字「柱木牧」所在であるとのことで、訂正させていただく。

 30年前に1度短時間訪れただけなので、これを機会に再訪してみた。温石川に沿い、大谷集落の外れで車を止め、川沿いの大沢林道を歩いて、滝の下まで行ける。
 途中、埋没した「川廻しの滝」前を通る

 2連5m(本滝4.5m+上滝0.5m)のさして大きくない滝。成因タイプとしてはありふれた支流型の滝である。図2参照

 遷急点オーダーでは、本流最上流の遷急点に対応し、沼T面を下刻する遷急点より古い。図3参照

 微地形オーダーで見ると、滝の立地が、支流との合流点の合流型で、かつ、河道が直角に曲がる地点にある屈曲点立地でもある。 図4参照

 この理由として、下流の河道と合流する支流が、断層線に沿っていて、左股の河道は断層を離れるので、直角にまがり、滝面が断層面そのものではと思われる
・・・・確認の要あり。

 本滝は、屈曲点からの掘り込みがほとんどなく、上滝が分裂を始めたばかりと考えられる。

 画像:柱木牧の滝 本滝 4.5m
 滝の名前・発見史
柱木牧の滝 位置図
 図1 位置図 水系:温石川と左股 黒線:大沢林道と支線
国土地理院2.5万地形図「安房古川」より作図
 滝の初出:

 この滝の最初の紹介者は、君島安正氏で、「温石川左股にある滝(滝名不詳)」として、1980年頃滝仲間に紹介された。
 
 その後、筆者が滝の一覧リストに、「大谷の滝」(所在丸山町大谷)として紹介していた。

 2010/07/17版 房日新聞社の「房総寂名瀑・後編」の第4回において、「柱木牧の滝」として所在が紹介された。

 滝の名前は無名であり、小字名を冠した仮名で呼ぶのが適当であるが、房日新聞の記述によれば、小字は「柱木牧」とのことで、「大谷の滝」は誤りであった。
 房日新聞の関係箇所を抜粋する。
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 珠師ヶ谷と石堂原を結ぶ市道の切割の南側に、温石川に沿って北上する大沢林道がある。少々荒れてはいるが、軽トラックならば通行可能だ。もっとも、林道は林業者のための道なので、その点を注意されたい。
 500bほどで、皆倉との分岐点になるが、ここを道なりに直進する。いくつか橋で川を渡ると「大遠見(おおどおみ)橋」がある。ここが本流の分岐点で、左股の支流に沿って、未舗装の道がある。草が伸びていて、非常に歩き難い。
 5分ほどこの道を歩くと、小さな瀑布帯が現れる。この上に目指す滝がある。滝は左股の支流から落差8bほどで落下している。上流は細い流れだが、ここで2段になって落ちて、小さな滝つぼを形成する。幅は最大部で3bほど。黒い岩肌に白い流れが落ちる。すぐ上は、丸山地区の低名山・経塚山(標高 310・7b)。温石川の源流部にあたる。
この滝は支流型で、本流は右股である。ここをさらに遡行すると、やがて強い硫黄臭が漂う。小さな滝を上ると、右岸に白い硫黄の流れがあった。
 佐久間さんによると、かつて珠師ヶ谷区がこの硫黄を利用しようと、鉱区を設定。塩ビ管でドラム缶に集積し、これを集落の人が利用していた。源泉中の源泉である。
 が、その設備も古くなり、やがて誰もこの源泉を利用しなくなった。滝を訪れる人も減り、現在は滝までの道も草に埋もれている。
 柱木牧とは、江戸時代の嶺岡五大牧のひとつ。経塚山の直下には、市指定史跡の馬捕場跡もあり、当時の石積みも残る。滝の存在とともに、歴史を感じさせる場所である。
---------------------------引用終わり

 筆者の滝の住所間違いを正してくださったのは、感謝したい。

 滝の落差8mは過大であろう。筆者の測定では5mであった。
 滝の地学      ページのはじめに戻る
 1.温石川上流の河床縦断と遷急点
  図2 温石川上流部水系と滝 (左図) 温石川上流の地質と地形 (右図)

  国土地理院2.5万地形図「安房古川」および地質調査所5万地質図「那古」より作図 緑線:流域界


  図3 温石川の河床縦断と段丘面及び滝

  国土地理院2.5万地形図「安房古川」および地質調査所5万地質図「那古」より作図
 
1.遷急点の所在と対比
 温石川には、第1遷急点と第2遷急点の2つの遷急点がある。
 遷急区間の比高規模は、5〜10m程度の小さいものである。
  標高130〜140mにある遷急区間。本流の標高160m付近にある遷急区間と対応する遷急区間である。比高5〜10m程度。
 柱木牧の滝(比高5m)は遷急区間の本滝としてよい。

 第1遷急点は、柱木牧の滝、本流の標高160mの遷急区間に対応するもので、時期は千葉段丘面期(立川期)に対応すると思う。

 第2遷急点は、沼T面相当の河成面を下刻する沖積期のものであろう。

2.遷急点と地質
 温石川上流は、保田層群増間層が分布する。

 (1)保田層群と三浦層群(増間層と石堂層)の境の断層が、谷底平野と欠床谷の地形境界に一致している。
 (2)保田層群増間層内の岩層の違いが、遷急点の立地に影響している。

 増間層の泥岩層と白色凝灰岩・泥岩互層で侵食の差があるらしく、白色凝灰岩・泥岩互層が、遷急点の上流に分布している。
 同じ増間層の泥岩層よりやや硬い地層として、遷急区間の位置を規制しているようである。

 この2つの地層が、柱木牧の滝の本滝滝面と合流する支流滝の滝面に見られる。

 (3)左岸山地上の、皆倉・平塚地区の地すべり地形らしきものは、凄く特異な感じで、ついでがあったら是非、見学しておくと良さそう。
 2.左股の地形      ページのはじめに戻る

 図4 柱木牧の滝付近の地形と地質

 国土地理院2.5万地形図「安房古川」及び
地質調査所5万地質図「那古」

 1.滝の移動量
 瀑布帯としてみると、本滝(柱木牧の滝)は、本流出合から、約350m後退・移動している。
 本流と本滝との間に低い下滝が何個かあったらしいが、林道工事で埋め立てられ破壊されて、分からなくなっている。
 
 2.滝の立地と地層境界
 滝の位置が、地質図の増間層泥岩層と白色凝灰岩・泥岩互層との境にある。
 温石川上流では、増間層泥岩層と白色凝灰岩・泥岩互層とで構成されていて、白色凝灰岩・泥岩互層がより侵食に対する抵抗性のある地層として機能しているらしい。
 3.滝面・滝崖の地形      ページのはじめに戻る
図5 柱木牧の滝 平面・断面図  図6 2連の瀑布帯を上から見る

 2連の滝(本滝と上滝)よりなる。 上滝上流は未調査。

 微地形オーダーで見ると、滝の立地が、支流との合流点の合流型で、かつ、河道が直角に曲がる地点にある屈曲点立地でもある。

 <地質の調査を十分行えなかったので、以下の記述は推測>
 上記の立地理由として、下流の河道と合流する支流が、断層線に沿っていて、左股の河道は断層を離れるので、直角に曲がり、滝面が断層面そのものになっている思われる。
 その断層面は、滝下の露岩露頭にその断層面がみえると思うのだが・・・。

 本滝滝面は、順層の泥岩層である。すぐ脇の支流の合流滝滝面(比高2m)は、白色凝灰岩・泥岩の互層で、その間は不連続になっているので、地質図に記載されていない断層があると推定される。

 断層線は、その連続から、支流の谷沿いに続いている物ものと想定されるので、本滝滝面が断層面であり、河道が断層面で直交していると考えられる。 
 断層面に直交する河道が断層面を滝面としているタイプの滝面形で、関東山地などではよく見られるが、房総の滝では珍しい・・・・関東山地では、払沢の滝、海沢の三ツ釜滝・大滝、丸神の滝など。
 滝の諸元
●滝の名称 無名。小字名をとって、柱木牧の滝
●所在地 南房総市丸山町珠師ヶ谷 小字柱木牧
●難易度、2 整備された道があり滝下までいける。
水系 温石川水系
渓流名 温石川左股(仮名)
地図  2.5万 安房古川
緯度経度 北緯36度04分08.1秒,東経139度58分49.3秒(世界測地系)
流域面積 0.25ku
滝高 2連5m
地層 保田層群増間層
岩質・構造 泥岩 ゆるい順層。 本滝滝面は断層面と思われる。
成因 支流型の滝
変遷 滝下流は断層線に沿う河道。断層線と直交する河道に滝ができ、全面滝壺、上滝分裂。分裂初期。本滝の侵食後退量 なし。
滝面 本滝 幟瀑 壁状直下型 全面滝壺 縦横比 1.5×4.5。  上滝 壇瀑 壁状急傾斜   
年代・同期 外野瀑布帯と同期
 参考文献
5万地質図「那古地域の地質」
● 調査記録
(1) 1980/05/06調査 調査者 吉村光敏 君島安正  野帳4-43
(2) 2010/11/27調査・撮影 調査者 吉村光敏 三明 弘 野帳 20-16
● 当記録作成 
2011/01/13
 未調査事項
・皆倉・平塚地区の地すべり地形らしきもの。
・本滝下の断層追跡。
・上滝とその上流部が未見。
・岩質の差異については、ほとんど観察していない。この点について、他の滝の立地友関連すると思われるので、今後、観察データを増やす必要がある。
    
 画像アルバム
本流沿いの大沢林道との分岐点

 右が本流沿いの林道。正面が左股への林道。
 橋が大遠見橋。
 橋は、昭和44年3月竣工なので、左股沿いの林道もその時に新設されたか・・・・大沢林道は昭和37年竣工。

柱木牧の滝まで、約350m。支流型の滝で、それだけの分後退移動した。

2010/11/27撮影

 柱木牧の滝全景

林道の末端、林道敷き上に左岸からの崩壊土砂が積み重なり、滝の全景が見下ろせる。そこより撮影。

滝の平面図に示したように、滝壺の地点で、左股の河道が直角に左に曲がり、その曲り角が滝になっている。 すぐ上流に、低い上滝があり、本滝と上滝の2連の瀑布帯になる。
5mの箱尺を一杯に滝壺の水面から伸ばした所。滝の高さは、4.5+0.5mの2段5mと測定。

また、同時に、下流の河道の直進方向から支流が滝壺に合流している。
画像では水流が見えないが、合流する支流は、人物の足下の所で、1mほどの滝で滝壺に落下している。

 つまり、この滝は、屈曲点立地と合流点立地を兼ねていることになり、ちょっと珍しい例。


20101127撮影

滝の滝面と滝崖

滝下より4.5mの滝下段と全面滝壺

 地層は、保田層群増間層。

、滝面の地層は泥岩層だが、その右の滝崖は、白色凝灰岩・泥岩互層で、岩相が全く違い、かつ、つながっていない。
 間に断層がある。
 滝の下流の流路と、滝下で合流する支流が、この断層に沿う方向である。
 滝は断層面に掛かっていることになる・・・それで、直角に曲がり屈曲点立地になっているわけ。断層との館液から良くある立地である。
 また、その目で見ると、右図の下段の滝面は断層面をほとんどというか、全然削り込んでいないことになる。左図に見える上段だけが、断層面から分裂して移動しつつあると読める。
  20101127撮影

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