南房総市荒川 荒川の滝  記録カード   滝記録カード目次に戻る  HPtopへもどる

●遷急点名 荒川の滝   ●水系名 平久里川  ●立地沢名 荒川  ● 滝一覧リスト とのリンク

2011/04/13作成。 04/20用語リンクおよび滝微地形の解釈を追加
 <もくじ> 
   概要    ・・・・・牛のよだれのように延々と下に続いています。 お急ぎの方は、概要だけで。(^_^.)
   
滝の名前・発見史、文献
   交通ルート
   滝の地学
    1.滝の成因
    2.滝の微地形とその解釈
   滝の諸元
   参考文献
   未調査事項
   画像アルバム
     文中の、茶色語は地学あるいはこのHP特有の用語(身内の隠語)なので用語解説リンクあり。
  荒川の滝 概要
 図1 荒川の滝
● 概要

南房総市荒川地区(旧富山町)所在。平久里川水系の支流荒川にある。平久里中より金束に抜ける市道沿いにあり、滝の脇を何度も通っていたが、最近、房日新聞の房総寂名滝シリーズで紹介されるまで、気がつかなかった滝。

 特殊な成因なため、普通の滝と立地が違っていて、ありそうもない所にあるため、今まで滝人間が誰も気づかなかったのであろう。

 位置は、2.5万地形図金束で、平久里中の沢向と荒川の野々塚の中間あたり、市道沿いの荒川本流。 図2 参照。

 滝下に降りる斜面は短いが、細引きでもあると楽。

 滝高3.4m。
 成因は、「地すべりによる河道変更の滝」で、さらに、房総半島の滝では唯一のことだが、滝を作る岩石が玄武岩溶岩からできている。


 滝の成り立ち・・・この辺の地層の嶺岡層には、破砕帯地すべりが広く発達する。その地すべりによって、以前の川が地すべりに側方から押されて、河道変更して、反対側の小山に押しつけられた。

 この小山がくせもので、以前海洋プレート上にあった海山が房総半島の地下に沈み込んで、バラバラに割れた際、海山の玄武岩溶岩層などからなる大きな岩石ブロックが、沈み込み帯の逆断層に沿う運動で、嶺岡層に取り込まれていた部分が、地表に現れ、周囲の地層より硬いので小山になった所であった。

 その結果、最近川が下刻したところ、硬い溶岩層を掘らねばならない羽目になり、やむなく努力して掘り込んだが、掘りきれずに滝になっているというもの。 図5参照。

 交通便利なところであり、滝の探勝のほかに、地質学的に、この溶岩層は、アルカリ玄武岩と呼ばれる種類で、海洋プレート上のホットスポットによる海山が日本列島の下に潜り込んだ痕跡であることなど興味深い。
 ちなみに鴨川地区の嶺岡山地の玄武岩(枕状溶岩が多い)は岩質が違い中央海嶺起源とのこと。論文:高橋1994を読んで、現地確認かたがた訪れることをおすすめしたい。
参照リンク 破砕帯地すべり  アルカリ玄武岩  ホットスポット
 滝の名前・発見史・文献
滝の紹介では、房日新聞の記事があり、岩石の紹介では高橋直樹:1994 の論文がある。
1,滝の初出
 【房州寂名瀑】シリーズ・ふるさとの滝めぐり房州寂名瀑 後編
【第6回】荒川の滝(あらかわのたき.南房総市荒川) 2009年7月31日

 ・・・(略)・・・地理的には本連載の前編で扱うべき位置にある滝だが、それもこれも、その存在が人知れず、知名度の低い滝だからである。正式名称はなく、地元でも特に呼び名はないというから、大字をとって、荒川の滝としよう。
 主要地方道鴨川富山線の平久里中のガソリンスタンド地先の丁字路を北へ向かう路線が、市道平群犬山線である。
上り勾配の道を行くと、左に大きな採石場が出る。この場所が大字界で平久里中と荒川の境である。採石場の先に市道と川が並行して流れる場所があり、市道下にこの滝がある。
 川は2級河川・平久里川の支流、荒川。この滝の上下域はケンチブロックの護岸や、砂防ダムなどがあるが、この滝だけは自然のまま手つかずである。外野の不動滝前後と同様、河川管理者が配慮したのだろう。 降りる道などないので、市道から無理やり川へ降りる。立木につかまりながらだから、少々危険である。慎重に岩を下っていくと、幅広の面滝に出合う。取材日は雨上がりで・豪快に広がる姿だった。幅は6b、落差は5bほどだ。それほど大きくはないが、しっかりとした流れの滝である。
 面滝だから、水は幾条にもなって広がって流れる。正面に大きな岩があって、流れはこの左右に広がる。特徴的なのはこの岩が非常に硬いことである。玄武岩なのだろうか、房州には珍しい硬さで少々の激流ではびくともしそうもない。・・・・(略)・・・
 <コメント>
(1).この滝についての最初の紹介である。
(2).滝の名称は、名称不明であり、大字の名を取って、「荒川の滝」としたと書かれている。
滝の名称が不明な場合、所在地名から、「◯○の滝」とするのは、やむを得ないと思うが、大字名はなるべく避けた方が良い。単純に、あとで、もう一つ滝がでてくると、困るからで、小字名をつける方が良いと思う。もっとも、その後、異論もないようなので、この報告でも、「荒川の滝」を使用する。

2.地質の論文
 この滝の特徴は、房総半島の滝では唯一の例であるが、滝を作る岩石が玄武岩溶岩からできていることである。
(1) この地点には、5万分の1地質図「那古」図幅内であるが、図では嶺岡層となっていて、玄武岩溶岩の記載がない。地質調査所作成の地質図では珍しいことだが、たまたまの調査漏れであろう。
(2) この滝部分の玄武岩溶岩層については、詳細な岩相記載を行った論文がある。
高橋直樹(1994)房総半島嶺岡帯西縁地域に見られる”アルカリ玄武岩ー砕屑岩シーケンス” 千葉中央博自然誌研究報告第3巻1号 p1-18
 <コメント>
 (2)では、概略地質図しか載せられていないので、地質と地形の対応関係が直接は分からないが、図4(地形分類図)に示したように、荒川右岸の小丘が、溶岩層とその関連地層からなると推察される。
 この小丘について、論文の情報と、地形の判読から、私は以下のように解釈した。
 「以前海洋プレート上にあった海山が房総半島の地下に沈み込んで、バラバラに割れた際、海山の玄武岩溶岩層などからなる大きな岩石ブロックが、沈み込み帯の逆断層に沿う運動で、嶺岡層に取り込まれ、その後、地表に現れ、周囲の地層より硬いので突出した小丘になった」と思われる。
 交通ルート
 図2 荒川の滝位置図  南房総市発行2,500分の1地形図 より
 概略位置はここ↓
北緯35度06分05.2秒 東経139度56分01.2秒(日本座標)

 平久里中より金束に抜ける市道沿いにある。
 
滝の脇を何度も通っていたが、最近、房日新聞の房総寂名滝シリーズで紹介されるまで、気がつかなかった滝。

 特殊な成因なため、普通の滝と立地が違っていて、今まで滝人間が誰も気づかなかったのであろう。

 位置は、2.5万地形図金束で、平久里中の沢向と荒川の野々塚の中間あたり、県道沿いの荒川本流。

 南房総市の2,500分の1地形図で位置を示す。

 市道から滝への踏み跡等もなく、上流下流は川岸が護岸で降りられないが、滝付近は護岸がないので、滝音を頼りに滝下の露岩上に降りる。排水溝の所というのがヒントか。

 滝下に降りるのに、補助ロープでもあると楽。

なお、南方の市道右手にある作業事務所の先から川に降りて、川沿いに行けば楽、ただし、長靴必要との情報あり・・・高橋氏談。
 滝の地学      ページのはじめに戻る
 1.荒川の滝の成因

図3 荒川の河床縦断図
平久里川との合流点から水源までの断面  下流の遷急点が荒川の滝

 図4 荒川の滝周辺の地質と地形
 しまった!。一番肝心なことを書き落とし。
この図の地すべりの分布情報は、防災科学技術研究所発行
「地すべり地形分布図」5万「那古」のデータを基にしています。
後日書き直す時に、きちんと注記します。相済みませんでした。<(_ _)>

 図5 荒川の滝形成概念図 

<荒川河道の水平移動と荒川の滝の形成>

 荒川という平久里川の支流は、流域が嶺岡層群と破砕された保田層群から成り、川沿いの全域が地すべりとなっている。
 そのため、荒川は、流域がなだらかで沿岸には連続的に地すべり地形が発達し、滝などありそうもない川である。 それで、今まで滝人間が探そうともしなかったのであろう。
 図3に荒川の河床縦断を示す。いかにも緩やかな川であるが、1ヶ所だけ標高80mの所に、遷急点があり、これが荒川の滝である。

 ただ、あると分かれば、いかにもありそうな場所にある。

 すなわち、図4に示すように、この辺の地層の嶺岡層には、破砕帯地すべりが広く発達する。
 
 北から流れてくる荒川の河道が、東側からの地すべりに押されて、西側の硬い岩でできた小山に押しつけられて、小峡谷を作っている部分と考えられるからである。図4に赤線で示した部分がその小峡谷で、峡谷を作る硬い岩のせいで遷急点がありそうな場所であり、荒川の滝はまさにその遷急点である。

 荒川の滝のある、小峡谷部の上流には、この峡谷の形成に伴い、上流の河床勾配が緩くなったことにより小盆地が形成されていて、野々塚の集落となっている,・・・・・図4の上部参照

 さて、川が押しつけられた小山がくせもので、以前海洋プレート上にあった海山が房総半島の地下に沈み込んで、バラバラに割れた際、海山の玄武岩溶岩層などからなる大きな岩石ブロックが、沈み込み帯の逆断層に沿う運動で、嶺岡層に取り込まれていた部分が、地表に現れ、周囲の地層より硬いので小山になっていた所であった。

 そこで、より高い位置(おそらく沼1面ごろ)に荒川河床があった時代に、右岸側からの地すべりにより河道が左岸側に押されこの小山に押しつけられていた。

 その結果、完新世後期の下刻により谷が掘られていった際、川が下刻していったら、山の一部を作っているものすごく硬い溶岩層に当たってしまい、溶岩層を掘らねばならない羽目になり、やむなく努力して掘り込んで、峡谷を作ったが、25mの厚さの溶岩層の20m分まで掘ったが、あと5mが掘れず、滝(遷急点)になっている。

 このような成因の滝を、私は、「地すべりによる河道変更の滝」と呼んでいる。
 房総では、荒川の滝以外では、乙沢の滝、湯滝などの例がある。




用語参照リンク
  破砕帯地すべり

  遷急点 →このHPの用語集
 2.の微地形と解釈      ページのはじめに戻る
 図7 滝平面図と断面図
図8 滝の正面図

 滝は河床に溶岩層が出ているところから峡谷を作り、25mの厚さの溶岩層を約20mほど掘り込んで、止まっている。

 図6 滝付近の地質と滝の位置
 図9 溶岩層 図6のHg-E6層より

論文中の地質柱状図(図6)がまさに、荒川の滝および下流の峡谷に当たる。
 柱状図に滝の位置を示す。・・・この層位は、高橋氏の教示による。

 溶岩層は、岩相が枕状溶岩でなく、緻密な玄武岩溶岩層とその上下のクリンカー部分(溶岩層の上面・下面の破砕溶岩片から成る部分)からなるが、全体に固結しており、割れ目が少なく緻密で硬い岩体をなし、弱線が見られないので、峡谷の平面形は直線状でない。地層の傾きは逆層。
 
 滝面簾瀑(縦横比 0.9:1.0) 両溝急傾斜型滝面、全面滝壺である。

 緻密で硬い逆層の岩で、急傾斜な滝面を持ち、全面滝壺となっている。

 滝面形は溶岩層の割れ目に沿って両溝型となり、両溝間の滝面は溶岩層とクリンカー部(溶岩層の上面下面の破砕部分)の強弱に対応した複雑な形状になっていて、滝の頂上部は、溶岩の比較的弱いところや割れ目を掘り込んだ凹地が見られる。

溝に詰まっている巨礫や、河床に2m以上の巨礫が見られるが、土石流礫ではない。 図8参照

 滝付近は、上流から土石流が流れてくるような渓流ではなく、また、支流もない。 この礫は、峡谷右岸側の急崖からの崩落礫と思われる.
<滝の微地形の解釈>
 この滝は、上滝下滝のない本滝だけの単瀑布型瀑布帯で、滝の下流は、全面滝壺後退型の瀞状廊下となっている。
この形は、滝の侵食形式でいうと、平行移動型*の滝の侵食だけが行われていて、滝面直下の全面滝壺周辺での侵食のみによって滝の後退が起こっているとまとめられる。一般には、川の下流、平野部の滝などによく見られる型である。

 定性的・概念化して言うと、このタイプは、「岩石の抵抗力に対して、河川の下刻侵食力が相対的にかなり小さい場合」といえる。
 
この滝の立地は、水系の上流の山間部であるが、山間部であるにもかかわらず、このような滝が出来ている理由としては、
 1.荒川という川が、流域全体がなだらかで、砂しか流していない下刻侵食力の小さな川であること。
 2.滝の岩石が、房総で一番といえるほどの堅硬緻密な玄武岩層で、下刻に対する抵抗力が非常に高いこと
から、河床岩石の抵抗力に対する河川侵食力の相対的な過小状態が起こっているためと考えられる。
 用語参照リンク
  滝面 →このHPの用語集
  逆層 →このHPの用語集
  両溝型 →このHPの用語集
  全面滝壺 →このHPの用語集
  簾瀑(れんばく) →このHPの用語集
  
単瀑型瀑布帯 →このHPの用語集
  
土石流


*滝の侵食形式:分裂移動型と平行移動型・・・・「沢名川乙女滝の侵食地形ー滝の侵食後退の2タイプー」を参照してください。           http://chibataki.moo.jp/kengaitakicard/sawanagawa.html
   分裂移動型は土石流河川など、侵食力が相対的に大きい河川に見られる
 滝の諸元
●滝の名称 荒川の滝(仮称)
●所在地 南房総市荒川
●水系  平久里川水系
●渓流名 荒川
●地図  2.5万金束 5万那古
●緯度経度 北緯35度06分17.4秒,東経139度55分49.1秒(世界座標)
●流域面積 3.69ku
●滝高 3.4m(測定)
●地層 嶺岡帯のアルカリ玄武岩 平久里中岩体 
●岩質・構造 玄武岩溶岩およびその角礫部 緩やかな逆層。 
●成因 地すべりによる河道変更の滝
●変遷 単瀑型瀑布帯 侵食後退量 約20m
●滝面 簾瀑(縦横比 0.9:1.0) 滝面 両溝急傾斜型全面滝壺
●年代・同期 対比される滝はない。
 参考文献
●房日新聞企画・エッセイシリーズ・ふるさとの滝めぐり 房州寂名瀑 後編 第6回 荒川の滝 南房総市荒川 
  http://www.bonichi.com/Guide/item.htm?cid=a&iid=767 (2010年7月31日)
●鈴木尉元・小玉喜三郎・三梨 昂(1991) 地域地質研究報告(5万分の1地質図福)那古地域の地質.地質調査所 48pp.
●高橋直樹(1994) 房総半島嶺岡帯西縁地域に見られる”アルカリ玄武岩ー砕屑岩シーケンス” 千葉中央博自然誌研究報告第3巻1号    p1-18.
● 調査記録
 調査日 20110310 撮影日 20110310  調査者 吉村光敏 野帳20-31
● 当記録作成 
 2011/04/13 04/20用語リンクおよび滝微地形の解釈を追加
 未調査事項
 限られた時間での概査であったので、
1.周辺の微地形と地質
2.滝面の地形
3.測図などを行う必要がある
    
 画像アルバム   20110310撮影
 滝面
 両溝型で全面滝壺
 。


峡谷左岸側連続写真

溶岩上に段丘状に崩壊礫起源の巨礫層が載っている。


  峡谷 右岸側の急崖下部


 両岸の溶岩層には、割れ目があるが不規則。

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