知る人ぞ知る滝
雨降滝 --特異な川廻しの滝--
所在地:勝浦市荒川
落差 5m
水系:夷隅川本流
成因:川廻しの滝。
地質:上総層群黄和田層の泥岩。
本滝滝面:面滝壁状直下型。全面滝壷
滝名の由来:稿本千葉県誌には『夷隅郡上野村大字荒川に在り、高さ一丈餘、濶さ二丈五尺にして房總國境の渓水合し來りて此處に飛下し、流末は北方大字貝掛に入る。』とあり、
夷隅郡誌には『里人曰く旱魃の時之を干せば雨忽ち至って洪水を起こすを以って此名(雨降滝)ありと』とあります。
戦後、六ツ雁滝という名をつけたこともあり、滝上の県道のバス停の名前になっている。
交通:勝浦市松野から西に行く県道ぞい。勝浦市荒川の新川橋手前、バス停六ツ雁滝のところ。滝下には、橋を渡って左岸側に釣り人の踏み跡あり。
見どころ: 一見、普通の自然の滝のようですが、江戸時代に大規模な川廻しが行われてできた川廻しによる滝です。
この川廻し地形は、交通便利のところにあり、夷隅川流域では最大級で、もしかすると、千葉県内で最もよく知られた川廻しと川廻しの滝かもしれません。滝も水田型の川廻しによる滝としては最大級のものです。
最大級でもこんなもん(5m)ですけどね。林業型の川廻しの場合は、比高の大きな滝ができますけど。
しかし、この地形を見て、川廻しってこういうものと思ってはいけません。それこそ早とちり。
この川廻しは千葉県では他に類例のない特異な川廻しなのです。
●荒川の川廻しがどこが特異なの、という人は長くなりそうなので →荒川の川廻しについて
●川廻しってなに? という人は、→川廻しとは
急所:名前が変なのだ
普通、川廻しの滝には、特有の名前が付くことがありません。私が付けている名前は、たきの所在する大字・小字の地名です。つまり、『□□(滝のある所の地名)の滝』というわけです。
川廻しの滝は、本来無名なのです。
人間が居住し、小字地名が付けられた時期(すごく古いことはないと思うが、近世の村が成立した江戸時代初期には大体できていたと思う)より後に、人工的に作られたものですから、『□□の滝』で足りてしまうのではと考えられます。
名前ナシでもよい理由の一つは、川廻しの滝には信仰行事・伝承がないことからわかるように、川廻しの滝には信仰が付かないからでもあります。人工の滝だからご利益がつかないというのは間違いで、江戸時代には人工の修行用の信仰の滝がたくさん作られています。川廻し工事で信仰が発生しないのは、恐らく、地名と同じく、水関係の信仰は村内の信仰組織と信仰対象共に近世村の成立と同時にすでに作られていて、江戸時代中期以降の川廻しによって新たな信仰対象を作る必要がなかったのだろうと思われます。作られたとしても、人工の滝でなく、水神の石造物がよりふさわしい時代になっていたのでしょう。
まあ、川廻しの滝か自然の滝か判別する時に、滝の固有名称や信仰の有無が一つの判断基準になるぐらいですから。
ところが、荒川のこの滝には、雨乞い伝承があり、雨降滝というそれに因んだ滝固有名があります。このような、川廻滝に信仰が付く例は他に1例もありません。
推測ですが、川廻し工事によって造成された川廻し水田の地形が他に類例がないのと符合する現象と考えると、この川廻しが、単なる水田造成だけでなく、洪水制御の意味もあったことから、発生したことかもしれません。