掲示板にだした文章を、頭から並べました。
えらく長いですね。滝の成因に御興味のある方は御覧下さい。 
対象となった本の記事は、暖かく見守ってあげるべきもので、真面目に反論するのは大人げないのではとは思ったのですが・・・。
せめて、地学系の人に文章を見てもらう程度のことをしていたら、こんな酷いものができないですんだのにと思うにつけ。やむに止まれず書いてしまいました。


間違いだらけの滝の成因説明が・・その1

 滝おやじ 
講談社カルチャーブックス 『 日本の滝─躍動する水の美と名瀑への招待』
永瀬嘉平、三島明男 宮田 登、ほか  講談社 1995.9.15 A5判119頁 1500円 という本がありますね。
 そこに、滝のミニ百科という章があって、「滝の成因・類型」という項があります。この章は、筆者名が無いので、本の著者の永瀬、三島、宮田等の方々の執筆したものでないと思います。 編集者がつぎはぎしてまとめたものかもしれません。その無名氏のいいかげんな仕事に対する批判です。

 この章の成因についての部分について、述べたいと思います。
 以前、一読して、笑いだして、忘れていたのですが、滝の愛好者のHPを見るとよくこれがそのまま引用されていたりしているようで、だんだん心配になってきました。
 とにかく、全然分かっていない方が書いたものと思えます。一言でいって、一切、参考にすべきでありません。
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 以下、文章をあげて、間違いを指摘しておきます。対象文は短いのですが、間違いがどっさりあるので明瞭な間違いに限りましたが、批判する文章は長くなりそうなので、何回かに分けます。
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<原文はこれです>
  滝の成因・類型
 滝の成因は多種多様で、長い地質時間を経た浸食作用、火山の爆発、地殻変動など、地球内部での見えない要因などによって生れる。 以下に滝が誕生する基本的なパターンをあげてみよう。

【断層瀑布】
一番オーソドックスな成因。断層が河身を横切ったために、地盤の一部が陥没し、その断層によって水流が下がり、滝になる。

【溶岩瀑布】
 火山の爆発で溶岩が川をせき止め、その末端のところで断層が生じて滝になる (華厳の滝はこの典型的なもの。かつて標高二四八四メートルの男体山噴火によって大谷川がせき止められ、誕生した滝である)。

【堅岩瀑布】
 川底に堅い岩盤や岩脈がある場合、そこだけが浸食されずに残り、軟らかい部分が削られたり、崩れ落ちて崖ができ、滝になる (吹割の滝やナイアガラの滝はその代表例)。

【河蝕瀑布】
 地学の専門語では「懸谷」と呼ばれるもので、激しい水蝕によって河身の本流が低下し、そのため支流の川床が高まった場合にできる。つまり、川床の落差によって、支流から本流へ注ぐところが滝になる (黒部川の十字峡やフィヨルド海岸線に懸かる滝はその例である)。

【潜流瀑布】
 溶岩層沿いに伏流した地下水が、下流で断層や断崖にぶつかった場合、その中腹から落下Lて滝になる (富士の白糸の滝や浅間の白糸の滝、箱根の玉簾の滝などがその例)。

---<批判>----------------------------------
1。【断層瀑布】について
<対象文>
【断層瀑布】 一番オーソドックスな成因。断層が河身を横切ったために、地盤の一部が陥没し、その断層によって水流が下がり、滝になる。

<私の批判 1、本来の考えと違うよ、という低級な批判>
対象文は、完全な誤解です。(-_-メ)
説明によると、断層運動がおこって、断層による変形(陥没と書いてあるが隆起にしないと駄目だよね、陥没したら湖ができるだけですもんね)で川に段ができることによる滝で、一番多いということですね。
 このようなことは、まずおこりません。ですから、一番珍しい滝に属するでしょう。
断層による変位で滝ができた例は、最近では台湾の大地震で紹介されています。しかし、このような滝は例外中の例外です。活断層地形というのは、確かにあり、川の流路の横ずれや、河岸段丘の変形などが残されますが、活断層による滝というのは、まずありません。
 
 その理由は、
1。活断層というのはそこら中にある地形でない。
2。活断層による垂直変位量は最大級のもので5〜6m程度で、活動頻度も1000年オーダーですので、断層で地形が変形しても、川が削る速度が速くてすぐ削られ、侵食されてしまってその地点で変位は残らない、
からです。
 上で指摘した間違いは、対象文の筆者の引用間違い(理解違い)で、本来はそんな風には書いてなかったはずです。
 つまり、「滝の存在している場所が断層に当たっていることが多く、断層に沿って下流側の岩石が侵食されて、掘出された断層面が滝になる」という説明があったはず。それで、成因として断層瀑布になるというわけです。
断層運動によって、川の段ができるのでなく川が段を掘出すんですね。このところが、地形を知らない人が陥りやすい典型的な誤りなのですが。
(長くなるので、批判2は次号。溶岩瀑布以下の批判もつづきます)

間違いだらけの滝の成因説明が・・その2

滝おやじ 【断層瀑布】批判の続き。

<私の批判 2 高級な批判:成因論の建て方について>

批判その1で示した、用語と本来の説明は、古くからあり、よく使われていますので一般化しているようです。しかし、実は、現実の滝の成因を考える武器としてはよくあリません。
 用語とか分類っていうのは、それを適用していけば対象の理解が進むものでなければ意味ないですから。

●以下、その理由。
私のHPにも、「滝の地形には3種類ある」ということで書いておきましたが、
私の考えでは、滝の地形には、
1。滝(遷急点)が最初に作られる理由の種類による滝の分類、
2。滝(遷急点)が移動していく変化の種類による滝の分類、
3。現在の滝が現在地点に止まっている理由の種類による滝の地形の分類
の3種があり、それぞれ別の範疇になります。

 たとえば、
1。活断層で川に5mの段ができ(成因の分類:活断層の滝)、
2。それが上流に分裂しながら移動して3mの2つの滝に分かれ(変遷の分類:連瀑)
3。1つ1つの滝は上流にあった別の断層面を掘出している(立地の分類:断層掘出し滝)
 といった風になるわけです。
なお、「滝面」の景観分類は、3の立地成因と密接に絡みますが、現在滝面を川がどう削っているか、岩石がそれにどう対抗しているかという観点から分類することになるので、また別の分類になります。
例:面滝壁状直下型・砂岩層 みたいですね。

以上の観点からいうと、断層瀑布といういう観点は、3の成因を、1の成因にしてしまっている、という誤りを犯しているのです。
 断層があるから滝が出来たのでなく、川が下刻して滝が移動してきたが、断層に逢ったので滝が止まった、のです。
つまり、滝の成因のおおもとの川の下刻は前提になっているわけで、理由は述べられてないということですね。
ただ、従来の分類がみな、123をごっちゃにしていますので、この件については、私の新分類を示さなければ完全な批判にはならないと思いますので、後日に分類は示したいと思います。→示したよ。リンクしたところに行って下さい

ただし、滝が止まるのは断層の所であるかというと、そうではありません。
1。断層以外の所でも止まっています。:節理系の場所にあることも多く、未固結の弱層の存在によることもあります。また、地質条件でなく、河道の曲がる所、大きな支流の合流する所などの地形的条件でも滝が止まります。むしろ、その方が多いでしょう。

2。断層の所に滝があったとして、今の滝にある断層が特別に止めたとはいえない。:断層が入っている地層では、ものすごくたくさん断層が入っているものです。

ですので、滝の下流の河床には同じ程度の断層はたくさんあるので、今掘出している断層が特別とは言えないことが普通です。普通は、特別大きな断層破砕帯などがあったり、岩質が急変するる断層でなければ、途中途中で一時的にそれぞれの断層の所で止まる程度の障害であると思われる。

つまり、断層瀑布という概念があるなら、節理瀑布・・というのもなくてはいけないしということになります。断層だけ過大評価されているということでしょうね。この点でも、従来の成因分類は不十分だと思います
(長くなったので、以下次号。次は、【溶岩瀑布】)

間違いだらけの滝の成因説明が・・その3

次の溶岩瀑布についてです。火山活動による滝は対象文を書いた人のイメージとは異なったものです。
---<文面は以下の通り>----------------
【溶岩瀑布】
火山の爆発で溶岩が川をせき止め、その末端のところで断層が生じて滝になる (華厳の滝はこの典型的なもの。かつて標高二四八四メートルの男体山噴火によって大谷川がせき止められ、誕生した滝である)。
-------<批判>-------
→「断層」というのは「斷崖」のことだと思う。断層と斷崖の区別ができてない人が、結構多いんですよね。
→火山起源の滝の場合、このように既存の川を溶岩が堰き止めてというのは、ありえることですが、実例で見るかぎり
●1。溶岩でない場合も多い。
その例は、華厳滝の近くの龍頭滝で、既存の谷に火砕流が流れ込んで滝は火砕流堆積物にかかっていますよね。
●2。既存の川でないことが多い。
華厳滝の場合も、堰き止めているのは溶岩流ですが、今、滝(川)のあるところは以前の山の斜面で川など無かった所です。

→つまり、既存の川に段ができるというイメージでなく、今まで川の無かったところに火山体の成長によって新規に川ができる場合、たとえば
 ●1。火山爆発でカルデラができ、底に溜った水が周囲の一番低い所から溢れる。
 ●2。火山(溶岩だけでなく火砕流や爆発噴出物も含んで)が成長した結果、新しくできた火山体と既存の山との間に凹地ができ、そこに溜った水が一番低い所から流れ出す。といった、川が新たにできる、その川はもともと下流側より高い位置にあるので下刻する。
 すると、溶岩層等の硬い岩石にあたって下に掘れなくなり、下流側との間に段ができて滝になるというのが多いようですね、これが、火山に関連した滝のできかたとして一般的です。
つまり、新しく川ができるという所がみそ。
→名称が良くない。火山堰止め滝などというべきでしょう。
(次の【堅岩瀑布】については、長くなるので、以下次回)

間違いだらけの滝の成因説明が・・その4

次は、【堅岩瀑布】です。ただし、以下の批判はここまで求めるのは酷というもの
でしょうね。引用が間違っているというわけでなくて、引用もとが不十分なのです
から、編集子に罪は無いと思うし。
ただ、事例として、吹割の滝が出てくるのは訳が分かりません。
批判対象文は以下のとおり。
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【堅岩瀑布】
 川底に堅い岩盤や岩脈がある場合、そこだけが浸食されずに残り、軟らかい部分が削られたり、崩れ落ちて崖ができ、滝になる (吹割の滝やナイアガラの滝はその代表例)。
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<把握が不十分>
→●滝の成因ということからいうと、上の断層瀑布の所で言ったように、地質が川の下刻の原因ではありませんので、この説明は、何故そこに滝があるかということで、何故滝が発生したかではありません。

→●岩石の硬軟が原因で、滝がそこに止まっていることは多いのですが、滝面の上流側が硬い場合(普通のイメージと思います)だけでなくて、滝面の下流側が、まわりより弱い岩石の場合があり、むしろその方が多いです。さしずめ、「軟岩瀑布」ということですね。
もっというと、軟らかい岩が広くある所に硬い岩が一部あるというイメージと思いますが、反対に、硬い岩が広くある所に、一部分弱い岩があって、そこに滝ができるということが結構あります。

軟岩には、1。凝灰岩層などの未固結岩層、2。断層破砕帯などの岩そのものは硬いけれどブロックでこわれやすい岩石などが普通です。

<事例が適切でない>
→●吹割の滝:この滝は、堅岩瀑布ではありません。滝の位置に堅い岩、軟らかい岩があるわけではなく、滝の位置は川の曲がり部分で止まっているとしかいえないです。
また、そもそもの成因は、鱒飛滝+吹割滝で遷急点を作っているのですが、赤城火山からの支流に押されて、積載移動と呼ばれる現象で本流が西に移動したあと気候変動により下刻したためです。まあ、これは、判らなくても無理もないのですが。
なお、吹割滝中央の窪みの部分は軟らかい岩があるせいではないです。また、断層があるからでもない。これは、村で調査をしたとき私も頼まれていったのですが、窪みの部分には断層等の弱層はありませんでした。この滝の窪みは、滝面の中央部分に副滝ができてそれが、直線状に発達しているものと思います。
→●ナイアガラの滝はよく硬岩層による滝としてあげられていますが、ナイアガラ滝の川は氷河時代には大陸氷河の下になっていた所で、大陸氷河がとけて凹所が湖になり、その水が新たに川になったものです。滝そのものは、大陸氷河の底になっていた時代の氷河による段がその発生のもとになっています。その後、何キロも移動してきていて、硬岩層を削ってきています。
硬岩層があるから滝がなくならないでいる例というべきで、硬岩層が侵食されないで残っているから滝になっているわけではありません。
むしろ、硬岩を侵食している途中なので滝の形をしているというべきでしょう。

<こっちのほうが例としてはいいと思うよ>
→●一般に現在日本の川は上流の山地では2万年前から下刻期になり、100m近く峽谷を下刻して作っています。
それを前提に考えると、硬岩の影響で峽谷が掘れないでいる例として、茨城県の袋田滝、栃木県の龍門滝などは、硬岩により滝がそこにある例としては代表的なものと思います。那智の滝もそうかも(地形図だけの判断ですが)。


間違いだらけの滝の成因説明が・・その5

次は、【河蝕瀑布】です。
ここは、編集した人が無知だとしか言いようがないです。
事例として、フィヨルドの滝がでてくるのは、哀しいですね。
批判対象文は以下のとおり。
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【河蝕瀑布】
 地学の専門語では「懸谷」と呼ばれるもので、激しい水蝕によって河身の本流が低下し、そのため支流の川床が高まった場合にできる。つまり、川床の落差によって、支流から本流へ注ぐところが滝になる (黒部川の十字峡やフィヨルド海岸線に懸かる滝はその例である)。
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<名称の使い方が不適切。非常識というよりは無知>
→●文書には、河成の懸谷の滝の説明が引用されています。これを、「河蝕瀑布」という言葉で表すのは、明らかに不適切です。懸谷瀑布ならまだよかったかも。

<事例が不適切>
→●『フィヨルド海岸線に懸かる滝はその例である』:間違いです。このような滝は、懸谷地形の成因が異なり、谷氷河が掘り込んで作った『氷蝕谷』で、氷河が消滅・減少したあとの谷壁に新たに川が流れるようになってできる懸谷地形です。
このような懸谷は、氷蝕懸谷といわれています。懸谷でも、氷蝕懸谷滝というべきです。
ノルウエーの七姉妹の滝(見たことないですが)なんかが、よく事例にあげられていますね。ヨセミテの滝も同種と思います。
とにかく、フィヨルド地形は、河蝕地形でなく、氷蝕地形が沈水したものというのは常識と思っていましたが。(^_^;)

<支流の滝は上流に移動していくので、懸谷の滝は、懸谷の滝でなくなっていく>
→滝を見に行く人なら、誰でも分かると思いますが、支流にある滝は、懸谷をなす支流は小さな支流で、大きな支流は懸谷でなく合流し、滝ははるか上流側に移動している場合が多いです。支流が小さく、侵食力が小さい場合に懸谷の滝が残されるといえます。
 つまり、本流の下刻によって河床が低下した事による滝は懸谷の滝のみに限らないわけですね。大きな支流の滝には名前がないのは不公平ですね。
このように、実は、対象文の滝の成因の種類が、普通の滝の成因の多くをカバーしていない、書かれるべきだが書かれていない、抜けている成因が多い、というのが、私の批評であるのですが、これについては、あとで述べます。

 分類した、あるいは分類しようとしたことによって、新たなことが分かる、あるいは、分類できないものがあるのが分かるという点に、分類というものの価値があると思います。そのためには、分類方法は対象を全て仕分けしようとする執念か実力をもってなければ、認識のための道具たりえないと考えるので、敢えて言うのですが。

間違いだらけの滝の成因説明が・・その6

滝おやじ
次は、【潜流瀑布】です。
これで成因の列挙がおしまいになってしまうのですが、これっきゃないということが問題です。
しかし、それはそれとして、
文章自身を見ると、おの項は、不十分だが編集者の罪ではないという所です。
対象文は以下のとおり。
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【潜流瀑布】
 溶岩層沿いに伏流した地下水が、下流で断層や断崖にぶつかった場合、その中腹から落下Lて滝になる
 (富士の白糸の滝や浅間の白糸の滝、箱根の玉簾の滝などがその例)。
--<批判>--------------------------
→●断層は間違い。
→●地下の帯水層は溶岩層に限らないので、帯水層とでもいうべきでしょうか。
→●編集者の引いた原本の筆者も含めて、このような地下水湧出型の滝が、熔岩特有のものであるという考えが、不十分です。

 というのは、洪積台地周辺にある、半自然、半人工の滝の大部分が、溶岩でない砂礫層等を帯水層にする地下水によるタイプの滝だからです。
都会に近い、身近にある滝の多くが、この地下水湧出型の半人工滝です。
このへんで、滝とは何?、滝をどう定義するかということがでてくるのですが、それは後日。

→●事例のチェック:玉簾の滝の場合
<帯水層は礫層だった>→箱根の玉簾の滝は見たことがなかったので、すこし調べて見ました。
この滝は、箱根町湯本にあり、滝は、須雲川安山岩類(滝のところは写真で見ると岩種は角礫凝灰岩らしい)の上に、礫層があり、それを、箱根新期外輪山熔岩が覆っている地質のところで、礫層から水が湧き、帯水層になっているとのこと(『神奈川県の地学めぐり』より)。
 礫層の上の熔岩層の水であることは間違い無いみたいだから、誤りではないでしょうけど。

<半人工の滝である>→大正大地震の山崩れで埋まってしまっていたのを、掘出した滝という(『湧き水探訪 ひんやり命の水50選』による)。
 現在のは人工の滝というわけですが、そもそもが温泉旅館の名勝として手を入れて作られていた半人工の滝だったと思われます。このタイプの滝の場合、人工の要素を無視できないことが多いというわけですね。

→●事例のチェック:淺間の「白糸の滝」について・・・・・この項2010/08/16追加 
 もう一つの事例の、浅間の白糸の滝は、写真でみるといかにも加工された半人工の滝くさいけど、どうなのでしょうか? と書きましたが、先日、機会があって立ち寄ってきました。その結果を追加します。

<人工の滝だった>
 この滝は軽井沢町にあり、淺間火山の東麓にあります。私の見るところ、自然の滝ではなく、泉が湧いていた、2つの谷を、間の尾根をも削り取って、連続した1つの崖・滝に造成した人工滝です。 造成時代も新しく、昭和8年ごろ、造成目的は観光用ではないかと思われます。
   
 なかなか巧妙に作ってあって、完全な造成人工滝ですが、一見、自然の滝にちょっと手を入れた程度の半人工の加工滝であるかのように仕上げてあります。 それで、自然の滝として宣伝しているのでしょうね。
 まあ、どの観光パンフレットにも、地質の案内書(有名な白糸軽石の模式地でもある)にも、人工と書いてないから、自然の滝の例として引用してもしょうがないかもしれません。

<帯水層は粗粒の火山灰層だった>
 しかし、この泉の帯水層も不透水層(細粒の粘土層)も、溶岩ではなく、付近や地下にも溶岩層は全くありません。
 浅間火山東麓のこの地域の地質は、基盤をなす古い多度火山などの地層が凹みを作り、その凹みに、現浅間火山の前身である黒斑山火山の山体が壊れ、流下した塚原岩屑なだれ堆積物(岩質は、角礫凝灰岩)が、流れ込み堆積した埋もれ谷になっています。この埋もれ谷堆積物に沿って、その後成長した現浅間火山(前掛山火山)の山体からの地下水が流れてきて湧出しているとのことです。
 湧出地点の白糸滝では、塚原岩屑なだれ堆積物の作った平地に出来ていた湖の湖成層が不透水層になり、その上に堆積している白糸軽石など粗粒の火山灰層が、流れてきた地下水の帯水層になって、白糸軽石基底の層準から湧き出しています。
 
つまり、この滝の水も、滝の地形も、溶岩層とは無関係です。

 なお、余談ですが、「人工滝だから良くない」とは思っていません。水は自然ですし、泉としてはたいしたものです。
 また、滝としても、きれいに作ってあります。
 景色の観賞というのは、「より詳しく見た方が、より面白くなる」ものですよね。里山の自然のように、人間の手が入った自然も面白いです。
 この滝など、庭園を鑑賞するつもりで見ればいいのではと思います。

    
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以上で、逐語的な批判は終わりですが、全体をまとめた、批判の結論を次に出します。

間違いだらけの滝の成因説明が・・その7

いままで、逐語的に、批判してきましたが、全体にかかわる点をまとめて述べたいと思います。

<結論>
●1。その1〜6で述べたように、個々の説明の用語等の初歩的間違い、現象理解の間違いだらけです。

個々の部分の指摘でなく、全体を通していえることは、以下のとおりです。
●2。まず、ここにあげられている「断層瀑布」等の用語は、きちんとした定義もなく、勝手に造語されたものらしく使用すべきでないでしょう
●3。また、滝の発生原因の事例の半分ものべられていず、まったく体系的なものでないので、使おうにも使えないというのが正直なところです。

実は、すでに、50年も前に滝の発生についての事例は大体は述べられていました。既に地形学では古典になっています。この古典の部分をいいかげんにつなぎ合わせたことになったわけですが、滝について、地形屋さんが発言したことがほとんどなく、いわゆる滝の本に、地学的事項について、間違いだらけの低レベルの記述がまかり通っているのは、嘆かわしいと思います。

講談社の本のこの部分を作った方には、さんざん、一方的に断罪して悪かったですが、滝のような小さな自然でも、簡単に割り切れるような物ではなく、一筋縄では行かないのだという謙虚な気持ちをもって当たって頂きたいと思います。
<補足>
なお、一部既に述べましたが、古典であるということは、現在では、不十分であるということでもあります。
50年前の滝の成因論に書かれていることで、抜けていると思うこと

1。地形・地層の絶対年代測定が当時はありませんでした。河川の下刻速度や、滝の後退速度について、不明でした。
全体に、地形変化速度を現在の感覚より遅く想定していたように思います

2。氷河性海面変動、気候変動による気候段丘と下刻が日本でも一般的であるということが、明確で無かった。

3。活断層の調査が十分でなかった。
 1〜3とのことから、全体に、地形変化について観念的であって、地形発達史を踏まえたもので無かったと思うんですよ。

4。観念的でありすぎて、現実の実例をどっさり集めて帰納的に現象収集をするという点が、不足していたと思うので、積載移動による河道変更の滝や、大崩壊による河道変更の滝など、現実には結構多い滝が、特殊例として無視されていたように思います。

4。滝の成因でなく、遷急点の成因を論じていた。
これは、滝のレベル(遷急点の微地形)まで細かい地形を調べる現実的な必要がなかったせいだと思います。
--現在でもあるか?というと、今の時点では、疑問でしょうね。
しかし、
(1) 。少なくとも、滝愛好家という人々がいて、滝の写真集が売れているということ
(2) 。自然や人文の景観要素として、滝が広く取り上げられてきている
(3) 。河川流域全域での環境保全や、都市計画における自然的環境の保全・創造などが、次第に話題になってくる所まできているという状況があるわけですし、
(4) 河川の中での、滝の景観的・ランドマーク的な価値は、水源地と同等のずば抜けたものがあるわけですから、遠からず、細かいレベルでの滝の保全、滝景観の評価、滝の活用の手法等についての現実的必要が発生し、その基礎としての、滝の微地形論が必要になってくると思います。
(現状は、滝を破壊しても、文句を言われない・いわせないわけで、滝保全の社会的必要はないという事になっていると思いますが、そろそろ、それでは通らなくなりそうですね)

次に、発生の一覧を述べたいと思いますが、長くなりそうなので以下次号。

<以下次号は書かなかったんですが>
発生一覧を、『滝の地学 早わかり』に、滝の成因一覧として 掲げました。
 みてね